第][話 『再会の時』


タクスとルベリィとラティーはゲイザより先にレスコォールの研究所らしきところに
来ていた。タクスが入り口の扉を開けると、ラティーがすぐさま中に飛んで入っていった。
「博士ぇ〜!!」
白衣を着たお爺さんがフラスコや瓶、試験管などが沢山ある机の上で分厚い本を読んでいた。
タクスとルベリィがみるからに、普通のお爺さんだ。
そのお爺さんはラティーに気づくとゆっくり椅子から立ち上がった。
「む? おぉ、ラティーではないか。遅かったのぉ……ん? どうしたのじゃ、そんなに焦って」
「た、た、た、助けてくださいですの!!イルアさんが、あの、あのー!」
お爺さんはラティーの焦りように疑問を持っていたが、とても焦らずにはいられない状況だ。
あせって言葉がでないラティーの代わりにルベリィが状況を説明することにした。
「お爺さん、あのね、さっき森で変な男の人がイルアっていう子の胸を突き刺して……」
どうやらそこまでの言葉だけで状況を理解したらしく、顎に生えたひげを撫でて頷いた。
そのとき、ゲイザが研究所に急いできた。
背中に背負っている女の子――イルアはとても苦しそうだった。
「ほうほう、それじゃ、その子を連れてこっちへついて来い」
お爺さんは研究所の奥に続く部屋のドアを開けて、ゲイザ達もその部屋に向かった。
その部屋には色々な機械が置かれていた。
部屋の中央には機械がついたベッドが置かれていた。
「それじゃ、その子をベッドの上に寝かせてくれんかの」
「わかりました」
ゲイザは僅かながら息をしているイルアを慎重にベッドの上に寝かせてあげた。
気づくと、背中にイルアの胸から流れた血がついていて、とても冷たかった。
「よし、スイッチOK、っと」
お爺さんがベットの横についているスイッチを押すと、そのベッドの真上に設置されている
機械からイルアに向かって眩しい光が放たれた。
すると、光の中、イルアの胸に出来た傷が少しずつ塞がれていった。
その光が収まると、イルアは眠りについていた。
「それで傷は元通りじゃ。すごいじゃろ、この機械は」
ははは、とお爺さんは笑うと、目線をラティーに向けた。
「ところで、どうしてこの子はこんなことになったのじゃ?普通じゃありえない傷だったのじゃがの」
「ルアグ博士……ディメガスが、魔晶石がどうのこうのっていって、イルアさんの胸に手を突っ込んでその
石を取り出してどっかいっちゃったですの」
「なんじゃと……!? 魔晶石――そんな馬鹿な!」
吃驚しながらイルアを見ているルアグ博士と呼ばれたお爺さんにゲイザはどういうわけか聞いた。
「魔晶石って、何なんですか……?」
「そうじゃの、簡単に言ってしまえば永遠の命の源、じゃの」
「永遠の命……?」
「ここ最近に発見されたものじゃな。確かどこかの研究員が盗み出してそれをつかってホムンクルスを
造り出したと聞いたのじゃが……この子がそのホムンクルスだとはな」
ゲイザ、タクス、ルベリィ、ラティーはルアグ博士の言った言葉に驚いた。
イルアが『ホムンクルス』。
「しかし、魔晶石を奪われたとなると、この子の命も僅かしかないのぉ」
「イルアの、命が……? どういうことだ!!」
さっきまでルアグ博士に敬語で話していたゲイザは、その言葉を聞くと怒ったように問いかけた。
「言った通りじゃよ。ホムンクルスは原料と元となる鉱石を使って作るのじゃ。鉱石が命となり、
そして生命体として活動できる。まあ、なくなれば体内に残った僅かな鉱石の力で多少は生きられるが……」
「どうすれば助けられる!!」
「魔晶石を取り返せば助けられるわい」
ルアグ博士の言葉を聞くと、ゲイザは勝手に部屋を抜け出そうとしたが、タクスに腕を掴まれた。
ゲイザはタクスの方を振り向くと、黙り込んだ。
「一人で行くきか?」
「……………」
「せめて、イルアが起きて話を聞いてからだ」
「……わかった」
タクスはゲイザの腕を放すと、部屋を出て行った。
「ゲイザ、タクスのこと、悪く思わないでね。これでも一応心配してるんだろうし、ね」
ルベリィも続いて、ゲイザを置いて部屋を出て行った。
心配そうにゲイザを見つめるラティーは、無言でルアグ博士に掴まれた。
「この子が起きるまで見てあげておれ……」
ついにはルアグ博士とラティーもいなくなり、部屋には立ち尽くすゲイザと
静かに眠っているイルアだけが残された。
その研究室は静かだったが、イルアの寝息も静かだった。
ゲイザはベッドの横に置かれてある椅子に腰をかけた。
「俺は、どうすればいいんだ……?」
寝ているイルアを見た。その寝顔は、先ほどあった事がなかったかのような
気持ちよさそうな寝顔だった。
しかし、魔晶石を奪われた今、彼女の命はあと少し。
あのとき、何も出来なかった自分にゲイザは腹が立ち、悔しかった。
「ちくしょう……俺は、また――」
ゲイザは思い出していた。
ミリアを失ったときの辛さを。
助けられなかった悔しさを。
「また俺は、人一人も助けられないのか……?」
悩んでいたゲイザは無意識のうちに胸にかけていた
ミリアのペンダントを握り締めていた……


「ねえ、タクス。ゲイザ君にあんなこと言ってよかったの?」
「ああでも言わないと、勝手にどっか行くだろ?」
先ほど治療室から出てきたタクスとルベリィがその出てきた扉の前で
ゲイザに聞こえないように話し合っていた。
「ゲイザはきっと、あのときのことが未だに忘れられなくて、また人を
目の前で死んでいくのを黙ってみていられないんだ」
タクスがゲイザのいる部屋の扉を見ながら、真剣な声で言った。
すると、タクスの一言で、辺りが沈黙に包まれてしまった。
少したって、ルアグ博士がその沈黙を破った。
「あ、イカンイカン、そうじゃった。お主らのほかにもグラディームから人を
二人連れてきておるのじゃった」
その言葉に、タクスとルベリィは驚いた。
「わたし達の他にも、マルディアグに来てるグラティームの人がいるの?」
「もちろんじゃ。名はなんじゃったかのぉ……」
ルベリィがルアグ博士にその人の名を聞いていたとき、
外から研究室へ誰かが入ってきた。
「デュッセル=ウィルガイア、だ」
研究室へ入ってきた人の姿を見て、タクスとルベリィは再び驚いた。
一年前に敵として戦い、また友として戦った剣士。
聖白銀の戦神、デュッセル=ウィルガイアだった。
そして、その後ろに立っていたのはめがねをかけた女性。
ラティーはその女性を見るなり、すぐにその元へ飛んで行った。
「ファリスお姉さまー、お久しぶりですのー!」
「久しぶりですね、ラティー」
ファリスは両手を合わせ、手のひらを表にし、ラティーを乗せた。
そんなファリスとラティーをよそに、タクスとルベリィはデュッセルと話をしていた。
「デュッセル、な、なんでこんな所にいるんだよ。旅に出たと思ったら……」
「話せば長くなる。まあ、簡単に言うならば人々の平和を守るためにここ、マルディアグ
に来ている……と言ったところだ。俺はそれより、あっちの飛んでいる小さい人のほうが気になるのだが」
そんな会話でにぎわい始めた研究室でルアグ博士が手を叩いて黙らせた。
「うむ、ちょっと人数が足りないが、話すかの」
ルアグ博士は椅子に腰を下ろすと、咳払いをして話し始めた。
「ファリスとラティーによって連れてこられたグラディームの者達よ。
別世界マルディアグに呼んだのは他でもない……話で聞いたとおり、
この世界を救ってもらいたいのじゃ。影で動いている組織、『ディスペクタル』を滅してもらいたい」
タクスが思うに、ディスペクタルはディメガスが長の組織だということがわかった。
そしてそのルアグ博士の言葉に、デュッセル、タクス、ルベリィは頷いた。
「そんでの、今すぐここから南の方角にある港町、デュラズに向かって船に乗って
その仮の本拠地、ディスペクタルの要塞に向かってほしいのじゃ。
なぁに、心配せんでもよい。宿はすぐ取れるよう、手配してあるのでな」
ははは、とルアグ博士がわらった。
しかし、とても用意周到過ぎる。不気味なぐらいに。
タクスは、ふととても重要なことを思い出した。
「まだイルアが眠っているんだけど」
「そっちも心配せんでもよい。あの若造が負ぶっていってやればよからう」
若造――ゲイザに眠っているイルアを背負わせる。
さっきも背負ってきたので疲れているかもしれないし、デュラズに向かっている途中にモンスターに
襲われてはたまったものじゃない。
「俺のことは心配するな。イルアなら俺が背負っていく」
あれから少したってやっとゲイザが治療室から出てきた。
とても真剣な顔をしている。さっきまで悩んでいたゲイザとの雰囲気がどこか違っていた。
「何々?なんだか面白そうな話になってんじゃん」
「モッチロン、アタシもついていくからねー!」
再び研究室に人が二人入ってきた。
今度はキシュガルとリュアだった。
「久しぶりだな! タクス、ルベリィ。こっちはリュアだ」
「よろしくね♪」
そして、ゲイザが治療室に戻ってイルアを背負って出てくると、
彼らはルアグ博士の研究所、レスコォールを後にして
ディスペクタルの要塞に向かうため、まず南にあるデュラズに向かった。


続く

FC2 キャッシング 無料ホームページ ブログ blog