第]Z話 『イルア』
セントグラームの宿屋でゲイザ達は一晩を過ごしていた。
「さて、そろそろ寝るか」
二人部屋の中にいる仲間達全員にゲイザはそういった。
「そうだね。じゃ、イルアちゃん、ラティーちゃん、隣の部屋にいこ」
「えぇ――それじゃ、おやすみなさい」
「それではゲイザさん、タクスさん。おやすみですのー」
ルベリィは隣の部屋で寝るため、女であるイルアとラティーをつれてゲイザとタクスが
寝る部屋を後にした。
そして、その部屋に残されたのはゲイザとタクスの二人。
マルディアグに来てから、ゲイザはまともにタクスと会話をしていなかった。
なぜかというと、ラティーがいつもゲイザと共に行動していたからだ。
「ふぅー、久々の開放感だ……」
ゲイザは両腕を上に伸ばして自分が寝るベッドに腰をかけた。
ろくに寝てないためか、いきなり睡魔が襲い掛かるかのようにまぶたが急に重くなった。
「なあ、ゲイザ。寝る前に話でもしようよ」
正直に言えば、眠かったのだが久しぶりにタクスとまともに話せる機会だったので
ゲイザは話すことにした。
「ああ……そうだな。久々だしな」
ベッドに腰をかけていたゲイザは、タクスの方見た。
タクスはベットに横になって両手を頭の下に敷くようにして天井を見ていた。
「ゲイザはさ、イルアって子、どうするの?」
なぜかいきなりイルアについて質問をしてきたタクスに、少しゲイザは疑問を覚えた。
「どうするって?」
「……記憶のない子を無闇に旅に連れて行くのも危険でしょ?」
確かにタクスの行っていることは少なからず間違ってはいない。
未だ名前しか思い出せない少女を旅に連れて行くのも危ないし、かといって
ここで置き去りにするのも可哀想だ。
「それは、イルア自身が決めればいい。その答えは明日本人に聞くつもりだから、
心配するな」
「じゃ、話変わるけどさ――なんであの子を助けたのさ?」
「それは――」
ゲイザは何かを言いかけてから口を閉じてタクスと同じように、天井を向くよう仰向けで
そのままベッドに倒れた。そして目を閉じる。
「あの子が……」
「ミリアに似てるから、か?」
「――!!」
まさにゲイザが言おうと思っていたことをタクスに言われたことに驚きを隠せず
ベッドに倒した体の上半身だけを起こしてしまった。
そんなゲイザのとった行動を見て、タクスは笑いを堪えた。
「なんでわかったか、って? なんか、似てるもんな……雰囲気ってか、そんなに明るくはないけど
同じ感じがするんだよ。よくわからないけど」
「……………」
ゲイザはそのタクスの言った言葉を聞いてから、黙り込んでしまった。
その間を切るように、タクスはベッドのよこにある部屋を照らしているランプの火を消した。
「ま、俺は何も言わないよ。あの子のことは、ゲイザのことだからさ。ゆっくり考えるといいよ
――それじゃ、おやすみ」
暗くなった部屋の中、再びベッドに横になったタクスは、すぐに眠りについてしまった。
その暗闇の中、ゲイザは頭の中で考えていた。
(俺は、結局ミリアのことが忘れられていないのか……?
イルアにミリアの姿を重ねているだけなのか……? 忘れようと、思っているのだけどな……)
そう心の中で呟くと、重くなった瞳を閉じて、ゲイザは久しぶりの眠りについた。
ゲイザ達が夜眠りについて起きてみると、昼になりかけていた時間帯になっていた。
相変わらずゲイザの寝起きは悪かったが、なんとか起こしてセントグラームを
出発する準備をし、再びルアグ博士という人がいるレスコォールをゲイザ達は目指すことにした……
「ここを抜けたら、やっとレスコォールにつくんだよな?」
ゲイザは何かを疑うかのような声で横で飛んでいるラティーに言った。
「は、はい、この森を抜けたらレスコォールですのー!」
今、レスコォールに向かうため、森の中にいた。
一見、見た目は普通に木々が並んでいる普通の森だ。
しかしイルアは辺りを警戒するように見渡しつつ歩いていた。
「どうしたの、イルアちゃん?」
後ろでそわそわしているイルアを変に思ったルベリィは聞いてみた。
「誰かいる……」
「そうか? 人の気配なんて全然しないけどなぁ……」
タクスも一応辺りを見渡してみたが、誰もいない。
いるとしても、野生の動物やモンスターぐらいだろう。
「殺気……?気配ではなく殺気か、これは!!」
ゲイザが叫ぶ。どこにいるかわからない、正体を隠している誰かを見つけようと
同じく辺りを見渡すが、人の気配はせず、殺気がするばかりだ。
「グラビティ・フォール!!」
どこからか、男の人の声がゲイザ達には聞こえた。
その声が聞こえた瞬間、イルア以外の人は地面に倒れこんだ。
「た、立てない、だと……!?」
「力を入れているのに、まるで何かに押しつぶされているようだ……っ!」
ゲイザとタクスは力を精一杯入れて立とうとしているが、全くといっていいほど
体が地面から離れない。それに、体を上から押さえつけられるような感じだ。
「イルアちゃん、危ない!!」
ルベリィが叫んだ。イルアの後ろには一人の男が立っていた。
「!?」
その男の片手に持っていた鎌をイルアに振り下ろすが、
すぐに後ろに後退しその鋭い刃の斬撃からなんとか免れた。
「あなたは……あのときの!」
イルアは腰に下げてある鞘から小刀を抜く。
「ディメガス……!! イルア、逃げろっ!」
鎌を持っていて、あのとき村を襲ったときの男。
この世界を危機に陥れようとしている男。
ディメガスが、ゲイザ達を動けないようにしていたのだ。
「あなたにも術をかけたつもりなのですが、効いてないとはね……さすが、真の――」
「それ以上言わないで!!」
言いかけていたディメガスの言葉を掻き消すかのようにイルアは大きな声を出して
出せる力を全て手に入れて、小刀の柄を握った。
「ま、いいですけどね……あれさえもらえればいいのですからね」
「魔晶石……やらせない、それだけはぁー!!」
両手で小刀の柄を握り、ディメガスを目掛けて走り出した。
「そんな小さな刀でっ!」
イルアが両手に持っている小刀をディメガスは片手に持っている鎌で薙ぎ払った。
「きゃぁっ!」
力を手に思いっきり入れていたためか小刀は手から落ちず、弾かれただけで済んだ。
すぐさま構えを崩されたイルアは再び小刀を両手で持った。
「そらっ!」
再びディメガスが鎌を縦に振り下ろす。
イルアはそれを小刀で防いだが、鎌は弾かれなかったので、そのまま力で押される形で
イルアが押しつぶされていく。
「うぅ……!」
「さぁ、魔晶石をもらいましょうかね……っと!!」
「!!?」
ディメガスの鎌を持っていない方の手の爪に刃物がついていて、
その刃でイルアの胸を突き刺した。
「イルアァァッ……!!」
ゲイザは叫ぶが、まだ体は動かない。
「あ、あぁっ……」
イルアの口から血が吐き出される。
胸に突き刺さった爪の刃が動くたびに生々しい音が森の中に響く。
「ありましたよ、魔晶石が……!」
胸に突き刺した爪の刃をもっと深く突き刺し、体内に手を忍び込ませる。
そしてイルアの体の中にある魔晶石を掴み取ると、思いっきりそれを引きちぎるように
手を抜いた。
「っ………」
イルアの胸が血が溢れ、その血が地面に流れる。
そしてイルアはその場に倒れた。
「それじゃ、魔晶石を貰ったことだし、消えるとしますか」
ディメガスはそういうと、光に包まれて消えてしまった。
その途端、ゲイザ達に圧し掛かる何かも消えて、やっと立てるようになった。
「ゲイザさん、早くイルアさんをつれてレスコォールのルアグ博士のところへ
向かわないと、手遅れになるかもしれないですの!!」
「わかった! タクスとルベリィは戦闘に立ってモンスターに警戒してくれ!
俺はイルアを背負ってレスコォールまでいく!」
タクスとルベリィは頷くと武器を構えて先に走って行った。
「くそっ、一体なんだっていうんだよ!!」
ゲイザは血まみれて倒れているイルアを背負い、ラティーを連れて走り出した。
あれほどの痛々しいことをされたのに、微かにイルアの息をゲイザは感じることが出来た。
小刻みに吐かれる息を。
そして、イルアはまだ残っている力を手に込めて握り締めていた。
ゲイザに貰った小刀を……
続く
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