第]X話 『過去』
ゲイザ達は洞窟を抜けてから、少し離れたところにある街、
セントグーラムに来ていた。
「もうちょっとでルアグ博士のいるレスコォールにつきますけど、
皆さん寝てないので宿で一旦泊まったほうがいいと思うですのー」
「ああ、そうだな。あれからロクに寝てない……」
ゲイザ達はスィアリィで一晩泊まるつもりだったが、ルゥーディムの事件もあって
まだ寝ていないのだったのだ。今じゃ日が昇ってもう昼になっていた。
「俺も、くたくたでぶっ倒れそうだ……」
そういってタクスは眠そうに細めた目を片腕で擦ってあくびをした。
とりあえず近くにあった宿屋に入っていって部屋を取った。
「あーっ、疲れた!」
白いシーツが引いてあるベットにタクスは仰向けのまま倒れこんだ。
そして深くため息をつくと、一瞬のうちに眠りについた。
「早っ!!」
「それほど疲れていたんだね、タクスは……」
ルベリィは寝ているタクスを見ながら部屋に用意されていた椅子に腰をかけて
ゲイザを見てみると、ふとあることに気がついた。
「ねぇ、ゲイザ君」
「ん、どうした?」
「イルアいないね」
「え……?」
「あ、そういえばそうですの」
辺りを見渡すとこの部屋にいるのは立っているゲイザ、椅子に座っている
ルベリィ、ベットで横になって寝ているタクス、ゲイザの横で飛んでいるラティー。
いつの間にかイルアがいなくなっていた。
「この宿屋に入った時点で、もういなかったような気がするけど」
少しずつ思い出しながらルベリィは言った。
宿屋には入ってきていなかったが、セントグラームに入ってきたときには
ちゃんとイルアはいた。
となれば、勝手にどこかに行った。それもこの街中にいる。
「ルベリィ、ラティーを頼む!」
「ちょ、ちょっとゲイザ君!?」
ルベリィが声をかけて呼び止めようとしたが、すでに遅く、ゲイザは走って
部屋を出て行ってしまった。
「もう、ゲイザさんはすぐ行動に移す人ですの」
ラティーは空いたままのドアを見たままそう呟いた。
すると、隣にルベリィが立っていた。
「ほっとけないんでしょ、あの子。何にも憶えてないんだよね、確か」
「はい、イルアさんはそう言ってたですの」
その言葉を聞くと、ルベリィはふぅ、とため息をついた。
「ちょっと、ゲイザ君は忘れられてないのかな……あの子のこと」
「ミリアさんのことですか?」
「うん、そうだよ」
そういうと、ルベリィは再び椅子に座った。
そして、何かを思い出すように目を閉じて話した。
「ゲイザ君ね、今はああやって普通にしてるけど、ミリアって子を殺してから
数日間、何にも食べないでずっと泣き続けてたんだよ。破滅の塔――わたし達が
この世界に来たときに行ったあの部屋で。あの子のペンダントを握り締めてさ、
とうとう泣きつかれて寝ちゃったところをタクスが背負って帰ったんだけどね……」
「そう、でしたか……」
「くっ、イルアはどこにいったんだ」
ゲイザは宿屋と飛び出して辺りを見渡した。
街から出てないとすると、街の中心から探せば見つかるかもしれない。
もしくは、片っ端から人に聞いていくか。
街の中心には噴水がある。そしてその近くに街を見渡せる小さい塔が立っている。
そこに行けば見つけられるかもしれない――ゲイザはそう思って街の中心部に
向かって走り出した。
「はぁっ、はぁっ――いない、のか」
塔の最上階まで登って街を見渡した。しかし、イルアらしき人影は全く見つけられなかった。
それに、この塔に来るまでの間、辺りを見渡しながら走ったがイルアはいなかった。
「くそっ! どこに言ったっていうんだよ!!」
ゲイザはそういって塔を下り始めた。
そのとき、イルアは街外れにある一軒のボロボロの家の前に立っていた。
「何だかわからないけど、憶えてる……」
そういってイルアはその家の中に入っていった。
腐りかけた木のドアをあけると、中はホコリだらけでテーブルや椅子、散らかった本、
茶色に色が変わっているベットがあった。
イルアは、テーブルの上においてあった写真立てを手にとって見た。
「これ、この人……どこかで」
その写真には白衣を着た女の人と小さな男の子の写真があった。
小さな男の子には見覚えはないけれど、女の人の方はどこかで見たことがある。
「わからない……」
一生懸命に思い出そうとしたけど、結局何も思い出せなかった。
そして次に、その写真立ての近くにおいてあった書類らしきものを手に取った。
その書類に書いてあった文字を見る。
「――……っ」
何かがイルアの頭をよぎった。
「これは……私は……」
そのとき、この家のドアが開く音が鳴った。
「イルア!」
走ったためか息切れをしながらゲイザが入ってきた。
イルアはなぜかその手に持っている書類をゲイザに見つからないように隠した。
「イルア、一体なぜこんなところへ」
「私、この街に来たとき、何かを思い出してこの家を見つけたの」
「そ、そうか……それで何か思い出せたか?」
ゲイザがそう聞くと、イルアは俯いて首を横に振った。
「でも、いいの。思い出せないほうが幸せってこともあるだろうし……」
「イルアがそう思うのなら、俺は何も言わない……さ、宿を取ってあるから戻ろう。
疲れてるだろ、イルアも」
そういってゲイザは家から出て行った。
しかし、イルアは家を出て行かないで、隠した書類に再び目を通した。
「思い、出した……そうよ、私……」
「イルア?」
ゲイザがイルアが遅いのを心配して戻って来た。
するとゲイザに笑って見せたイルアは書類を再び隠した。
「ご、ごめん。ちょっと……一人にして」
「わかった、先に戻ってるからな」
そう言うとゲイザは今度こそ宿屋に戻って行った。
ゲイザがいなくなったことを確認すると、イルアは再び、書類ではなく
写真の方を手に取った。
「嫌なこと、思い出しちゃったな……」
そういって、イルアもゲイザの向かった宿屋に歩いていった。
続く
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