第]W話 『正しいコト』
洞窟の最深部――草花が生えている、明かりの射した所に
デュッセル達はいた。
先ほど、リュアという少女に母親が病気で薬草が必要だと
頼まれこの洞窟に来た。
しかし……
「騙したって言うのか!? リュア!」
キシュガルが黙っているリュアに叫びかけた。
「ここからはもうでれないわ……あなた達はここで死ぬの」
リュアはキシュガルに向かってそういった。
さっきまでのリュアの表情とは違って、笑顔が消えていた。
そしてリュアの片手にはヌンチャクが握られていた。
「デュッセル、これは罠だったってことなのかよ!?」
「うむ、この状況からしてそうだと言えるな……」
デュッセルとキシュガルがそういってる間に、彼らの周りには
モンスターが取り囲んでいた。
サーフォルという四天王の一人の女が呼び寄せたのだろう。
「クソッ!」
キシュガルが何かに悔しがり、槍を持った両手に力を込めた。
顔にも怒りが表れていた。
「ファリス、戦闘になるが大丈夫か?」
デュッセルは大剣を両手で持ち、
後ろに隠れるようにいるファリスに呼びかけた。
「わたくしも、魔法ぐらいはつかえるんですよ?」
そういって、白衣の中から分厚くて大きい1冊の本を取り出した。
その本を開いてファリスも、モンスターを睨んだ。
「さぁ、そろそろ消えてもらおうかねぇ……」
サーフォルがそういうと、デュッセル達を取り囲んでいたモンスターが
少しずつ歩み寄ってきた。
「くっ……キシュガル、ファリス、モンスターの数は多いがやるしかない!!」
「わたくしは後ろで援護しますので、詠唱中はモンスターを近づけないようにしてください!」
「了解した!」
ファリスは本を開いて両手から本を手放すと、本は宙を浮いたまま眩しい光を放っていた。
そして、ファリスを中心に魔方陣が展開された。
「ファリスには指一本触れさせん!!」
聖断刀で、モンスターを次々と薙ぎ払っていく。
モンスターの数は全部で8体くらいだった。
そのうちのファリスに近づく6体を相手にしていた。
「デュッセルさん、下がってください!」
「了解した!」
そうファリスに言われるとデュッセルはモンスターから離れた。
そのとき、ファリスの本から眩しい光が放たれた。
「今、旋律の刹那に、炎の力を交じらわせん……エクスプロード・イニッション!!」
モンスターのいる地面だけが砕けて下からマグマが噴出し、モンスターを焼き尽くす。
そして最後に大きな爆発が起きると、モンスター6体と、後ろにいた2体もろ共消滅してしまった。
「じゃ、そこの坊やから死んでもらうかねぇ」
「待ちやがれ! なんでオレ達を狙うんだ!!」
キシュガルはいつでも戦えるように、槍を両手で構えたまま、サーフォルに叫んだ。
「うふふ、それはね……ディメガス様の計画に邪魔な人間だからさ」
「そんな理由でっ!!」
「リュア、やっておやり」
すると、先ほどまで仲間だと思っていた少女、リュアがヌンチャクを片手に持って
喜怒哀楽もない表情でキシュガルを見ていた。
「ごめんね。でも、これがアタシの仕事だから」
「なんで、こんなヤツの手下に――」
キシュガルがリュアにその訳を聞こうとした瞬間、何かがキシュガルの腹部におもいっきり
当った。リュアのヌンチャクだ。一瞬のうちにキシュガルの横まで来ていた。
キシュガルはヌンチャクが当った腹部を片手で押さえてなんとか立っていた。
「聞かないで、それ以上……人には人の都合があるの」
「チクショウ……!」
「リュア、さっさとやっておしまい」
サーフォルが少しはなれたところからリュアに命令する。
しかし、リュアは動かないでそのまま止まったままだ。
「リュア、もしかして怖気ついたのかい?」
俯いたまま、何もいわないリュアは片手からヌンチャクを落としてしまった。
なぜかはわからない。
「はっ、使えないやつだねぇ。まったく……アンタもここで消えるかい?」
「ア、アタシは……」
リュアがやっと顔を上げた。しかし――瞳には涙が浮かんでいた。
「アタシは、こんな為に、戦いたくないっ……正しいことをしている人たちを、殺すなんて!!」
「黙れっ!」
そのとき、サーフォルの鞭がリュアに襲い掛かってきた。
リュアが頭を抱え、目を閉じる。しかし、痛みは何も感じない。
目を恐る恐る開けてみると、目の前にはキシュガルが立っていた。
「正しいことをして、悪いことなんてない。リュア。
悪いことをしていたことに気づけたなら、正しいことをしようぜ」
キシュガルはリュアにそう言って笑いかけた。
リュアも、瞳に涙を浮かばせながら笑っていた。先ほどまでの彼女に戻ったようだ。
「サーフォル、覚悟しなっ!!」
怒りに任せて地を蹴り飛ばし、サーフォルの元へ飛んでいった。
「くらえッ! トルネード・ツイストォー!!」
竜巻を槍に纏って、サーフォルを貫こうとしたが、彼女の持つ鞭で薙ぎ払われてしまった。
吹き飛ばされたキシュガルは再び槍を持ち、サーフォルを睨んだ。
「怒り任せに戦っても、サーフォル様にはかてないんだよっ!!」
電気を纏った鞭がキシュガルに襲い掛かる。
「バリアーッ!!」
キシュガルの周りには見えない壁が出現し、その鞭を弾き返した。
その壁を出現させたのはリュアだった。
「サンキュ、リュア!」
「うん!」
そして、気づくとその場にはサーフォルがいなくなっていた。
とりあえず、全ての敵が片付いたあとリュアはデュッセル達に謝罪をしていた。
「ごめんなさい……」
「デュッセル、許してやってくれよ」
リュアは頭を下げて、キシュガルはそれを庇っていた。
デュッセルは両腕を組んですこし目を瞑って考えると、1回頷いた。
「そうだな。キシュガルがいうなら、許そう」
「そうですわね、ちゃんと反省しているようですし」
デュッセルとファリスから許しを得たリュアは頭を上げた。
「しかし、なぜあんなことをしたか、聞かせてくれないか?」
するとリュアは俯いて悲しい顔をし、話し始めた。
「アタシには、1人の妹がいるの……父は行方不明、母は病で死んで、
うちでお金を稼げる人がいなくなったの。それで、仕事を探していたら
サーフォルに話しかけられて、いい仕事があるって……だから、アタシは任せられた任務を
していたの。でも、妹はいつのまにかどこかの家に預けられて、アタシは一人ぼっちに。
最後に残されたのは、この仕事だけだった……」
この話を聞いているデュッセル達も、悲しく思えた、
このどうしようもない現状があること。
デュッセルはとくに、平和を守るために戦っているはずだが、
どうにも出来ないことがあることをリュアの話を聞いて思い出した。
「あ、アハハ……ちょっと辛気臭いね。ゴメン……」
俯いていた顔を上げて誤魔化すように笑った。
「リュア、これからどうするつもりだ?」
デュッセルが笑っていたリュアに聞いた。すると少しの間、リュアは悩んだ。
「きーめたっ! アタシ、あなた達についていくからねっ」
「いいのか? リュア」
キシュガルが心配そうに言ったが、リュアはキシュガルに笑いかけた。
「何にもなくなって、悪いことをしていたことに気がつかせてくれたのは
キシュガルだし……まだ恩返しもしてないしね」
そういわれたキシュガルは顔を赤くして鼻の頭を指で掻いた。
「それじゃルアグ博士のところに戻るとするか」
デュッセルがそういうと、再びレスコォールへ戻ることに……
続く
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