第]V話 『優しさと小刀』
眩しい光がミリアのペンダントから消えたとき、
目の前にいたディメガスの姿はすでに消えていた。
「なんとか退けたけど、なんだったんだ……さっきの光は」
ゲイザが首にかけてあるペンダントをそのまま手にとって見たが、
変わった様子は見られなかった。
「あのぉ〜、ゲイザさん? この子はどうするんですの?」
ラティーは先ほど燃えている家の中から助け出した少女をいることを
ゲイザに伝えた。
少女はとても無表情な顔をしてゲイザの方を見ていた。
それに気づいたゲイザは、その子に話を聞いてみることにした。
「君、名前は?」
「イルア……それ以上のことはわからない」
イルアと名乗った少女の顔は、どこか悲しく寂しそうな表情をしていた。
するとラティーがゲイザの耳元で小さい声を出した。
「あのぉ、もしかするとですね……このイルアって子、記憶喪失じゃないでしょうか?」
そう言われたゲイザは両腕を組んで数秒悩んで、
「とりあえず、ここを出よう」
ゲイザはイルアの手を引っ張ると歩かず、
立ち止まったままゲイザの方を見ていた。
「何故行くの?」
「焼け死にたいのか!?」
立ち止まったままのイルアにゲイザはそう叫ぶと無理やり
その手を引っ張って村の外へ出た。
村の外へ出てみると、タクスとルベリィがゲイザの帰りを待っていた。
村の中は燃え続けていて周りの様子がよくわからなかったが、もうすでに
空は暗くなっていた。
「ゲイザ、どうしたんだ……その子」
と、タクスに言われたがゲイザは無視し、イルアを見た。
「君は一体何者なんだ? なぜ『ディメガス』に襲われそうになった?」
すると、イルアは困った顔をして俯いた。
「私、何も思い出せない……覚えているのは名前だけ。なぜ私がこの村にいたのかも、
何もかも思い出せないの……」
とても嘘をついているようには見えない様子だった。
ゲイザは少々危険になるが、心の中であることを決心していた。
「君、帰る場所がないんだろ? なら、せめて俺が君の帰るべき場所を
思い出すまで一緒にいてあげる」
「私は……」
そういってイルアは黙り込んだ。そして再びゲイザの方を見て、薄っすらと微笑んだ。
「私が何か思い出すまで、あなた達について行きます……よろしく、お願いします」
イルアは頭を深く下げた。
ゲイザ達は燃えた村、ルゥーディムを後にして目的地であるレスコォールを目指すため、
通らなければいけない洞窟についた。
その洞窟はとても明るくちょっと湿っぽい場所だった。
「なんで明るいんだ?」
ゲイザがでこぼこしている洞窟の道を歩きながら、その横を飛んでいるラティーに聞いた。
「えっとですねぇ、確か、魔法の力でこの洞窟は明るくなったものだと思いますの。
昔に誰かがこの洞窟全体に魔法をかけたのが原因だと思うですの」
「へぇ〜、なんで魔法なんてかけたんだろ」
タクスが辺りを見渡し歩きながらそう言った。
「ねぇ――」
ルベリィが何かを言いかけた瞬間、
「うわぁっ!?」
「きゃぁっ!?」
先頭を歩いていたゲイザとイルアが消えた。
タクスは前をよく見ると穴が開いていて、下にはゲイザとイルアの姿を確認できないほど暗闇だった。
「おーい、大丈夫かーっ!」
タクスの声が洞窟中に響き渡る。
「あ〜あ……穴があるよ、って言おうと思ったのに」
さっきルベリィが言いかけたのはゲイザとイルアに穴があることを忠告しようとしたら
、そのときはもうすでに遅かった。
「すまん……タクス、ルベリィ、ラティー! お前らは先に行ってろ!」
「はいですのー!」
ラティーがそういうと、タクス達はその場から出口へ向かって先へ進むことにした。
そして数秒たってから、イルアがやっと起き上がった。
「イルア……大丈夫か?」
「うん、なんとか大丈夫」
イルアはその場から立ち上がると自分の身に着けている服についた土の汚れを叩いて落とした。
暗闇――と言うほど暗闇ではなが、さっきいた場所よりは明かりが少しない。
「あ、ゲイザさん……血、出てる」
と、イルアは言ってゲイザの腕を指差して言った。
本人の言われてから気づいた。多分さっき落下したときに腕を擦ったのだろう。
「これくらいたいした事ないから気にするな」
ゲイザはそういって先へ進もうとすると、イルアに手を掴まれた。
「ダメ! 傷を放っておくと、もっと酷くなるから……」
そういうとイルアは自分の服の袖辺りを破りゲイザの腕の出血しているところをその破った服の
布できっちりと縛った。
「これで、多分大丈夫」
「ありがとう、イルア……それと、俺のことはさんをつけなくても、いいからな」
「う、うん」
そしてゲイザとイルアは、出口を探すため歩き出した。
歩き続けて数十分。出口は一向に見つからない。
「本当に出口あるのか……?」
ゲイザがそう呟いて途方にくれていたとき、イルアがその場に座りだした。
「疲れたか?」
そうゲイザが聞くと、イルアは何も言わないで首を縦に振った。
それを見たゲイザもイルアの隣からちょっと離れたところに座った。
「ねえ……ゲイザ。何で初めて会ったばかりの私にそんなに優しくしてくれるの?」
イルアはゲイザの方を見ないで、俯きながらそう言った。
「何でだろうな。俺にもわからない……けれど、あのまま放って置けるわけないだろ」
ゲイザがそう言うと、くすりとイルアは笑いを堪えた。
「優しいのね、ゲイザって」
優しい。それは久しぶりに言われた言葉だった。
ミリアと一緒に旅をした、あのとき以来の言葉を、ゲイザは耳にした。
しかしそのことを思い出すとちょっと辛くなるので話題をすぐ変えた。
「この後、モンスターとかと戦うことになるかもしれない。これを使ってくれ」
ゲイザがイルアに投げて渡すと、見事にちゃんとキャッチした。
そのキャッチした手の中にあったものは鞘に納まっていた小刀だった。
「これは……小さい刀?」
イルアはその鞘から刀の刃を出して見た。
その小刀は、ゲイザがいつも持ち歩いていた小刀。
「そろそろ、出口を探さないとな」
ゲイザはそういって立ち上がると、イルアと一緒に再び出口を探し始めた。
そしてようやく出口を見つけるとそこには眩しい光が目に入った。
違う出口に出てきてしまったが、あまり離れていないところにタクス達がいた。
そしてゲイザ達はレスコォールを目指すため、次の街セントグラームを目指した。
続く
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