第]U話 『何者かの気配』


デュッセル達はセントグラームを出てから次の街、
デュラグムを目指した。

「よーし、チャッチャと設置して終わらせよーぜ」
デュラグムの街の入り口を入ったキシュガルはデュッセルとファリスの
先頭に立って歩いていた。
デュラグムは緑が多く、環境もいい街で他の街と同じく
魔法機械がある場所だ。
「今回は何もないといいですね」
デュッセルの横に並んで歩くファリスは目を閉じて笑っていった。
セントグラームではディメガスの四天王の内、二人と戦うことになった。
「そうだな――何もなければいいが」
デュッセルは腕を組んでそう言った。
そのとき、微かに感じていた。何かの気配を――そして誰かに見られている事を。

デュラグムの街の中央にある銅像に、ファリスが魔界結界壁自動装置改を
設置した。魔界結界壁自動装置改は本ぐらいの大きさで街の中央の地面に
設置することにより魔物を街に入れないための結界が強化されるというものだ。
その装置を地面に設置したファリスは立ち上がって結界が張られているか確かめた。
デュッセルとキシュガルにはわからなかったけれど、ファリスには障壁を目で
見ることが出来るのだ。
「設置完了し終わりました。これで魔界結界壁自動装置改は全て設置したことになりますね」
「うむ、それではルアグ博士のところへ戻るか」
と、そう言って街の中央にある銅像から離れようとしたとき――
「そこの人達、待ってください!」
「誰だ?」
デュッセル達は声のするほうを振り向いてみた。
そこには一人の少女が立っていた。
その少女はデュッセル達の方へ走ってやってきた。
そのためか息を切らしていた。
「あ、あのぉっ……」
するとキシュガルがその少女の前に出てきた。
「どうしたんだ? オレ達になんか用?」
「あ、はい……実は、頼みたいことがあるんです」
「困ったことなら、オレに言え!なんでもしてやるぜ」
デュッセルはキシュガルの背中と少女を見ながらため息をついていた。
先ほどの気配はこの子だったのだろうか、と思ったけれど
まだ見られている気配はあった。
「実は、アタシの母が病気なんです……それでその病気を治すために
ここから南にある洞窟にある薬草が欲しいんですけど」
少女は少し泣きそうな顔でキシュガルを見ていた。
そう言われたキシュガルは胸を張って片手の拳で叩いた。
「任せろって! な、デュッセル」
キシュガルは後ろにいるデュッセルを見た。
「そうだな、困っている人がいれば助ける……仕方あるまい。
ファリス、ルアグ博士の所へ行くのは遅れるから、お前だけ先に帰ってろ」
しかしファリスはデュッセルの顔を真っ直ぐ見て顔を横に振った。
「わたくしも行きます。わたくしにも何か出来ることがあるなら、したいですからね」
「うむ……わかった。キシュガル、そこの洞窟へいって薬草を取ってくるぞ」
「あの、アタシも連れて行って!」
少女は背を向けて洞窟に行こうとしていたデュッセル達を呼び止めた。
「アタシも連れて行って。アタシもお母さんのために薬草取りに行きたいから」
デュッセルは少し悩んで「いいぞ」と言った。
「ありがとう!アタシの名前はリュア=ファズライ。よろしくね!」
そしてデュッセル達はその薬草のある洞窟へ向かっていった。

デュラグムから少し南に位置する洞窟にデュッセル達はいた。
この洞窟には少し強いぬるい風が奥から出口にかけて吹いている。
「リュア、といったな。その薬草はどこにあるんだ?」
先頭に立っているデュッセルは後ろにいるリュアに聞いた。
「えっと、この洞窟の一番奥にその薬草があったはず」
「まあ分かれ道はそんなにないからとっとと奥に行って薬草取ろうぜ」
そう言うとキシュガルは走って洞窟の奥へ向かった。

洞窟最深部。
そこにはどこからか光が射していてとても眩しい場所だった。
先ほど通ってきた道と違って、この場所には緑の草花が咲いていた。
「うむ、ここに薬草があるんだな」
デュッセルが地面を見ながらそう言うと真剣に探し出した。
「すっげーな。なんでここだけ草花が――ん? 誰だ、出て来い!」
キシュガルが地面に生い茂っている草花を見たとき、誰かの気配を感じ取った。
腰に下げている折りたたんだ槍を伸ばし、いつでも戦えるように構えた。
デュッセルも念のため、大剣を手に取る。
するとリュアが光の射す場所――デュッセル達から少し離れた場所まで歩いていった。
「サーフォル様、任務完了しました」
リュアがそう言うと、どこからかサーフォルと呼ばれた女が現れた。
「うふふ……よくやったねぇ、リュア」
デュッセルが今ようやく気づいた。さっきから誰かに見られていた感じ……
何者かの気配。それはそこに現れた女の気配だった。
「貴様、何者だっ!」
デュッセルが片手で大剣を持ってその女に叫ぶように聞いた。
すると女はふふふと笑ってデュッセルを見た。
「あたしの名前はサーフォル=ディル。ディメガス様の四天王の一人さ」
「何だと!?」
「騙したって言うのか!? リュア!」
キシュガルが黙っているリュアに叫びかけた。
「ここからはもうでれないわ……あなた達はここで死ぬの」
リュアはキシュガルに向かってそういった。
さっきまでのリュアの表情とは違って、笑顔が消えていた。


続く

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