第T話 『小さな訪問者』


「いつの日か君の事も思い出になるのかな
でも胸の奥にしまってる悲しみあふれ出す……
光まで無くしてしまうそんな出来事があっても
希望までは無くさぬように君の笑顔思い出してる……」
ラミアズ村の近くにある森の中から、一人の少年の歌声が聞こえてきた。
彼はゲイザ。今はラミアズ村に住んでいる。
その時、近くで何かが爆発する音が聞こえてきた。
「何だ……!」
ゲイザはその爆発の音が聞こえてきた方へ走っていった。
少し進むと、どこからか煙があがっているのが見える。
森を抜け、海の見える丘へ出た。
その丘は、海一面が見渡せて、すぐ近くには破滅の塔が見える。
すぐさま煙のあがっているものを見つけた。
それは、小さな丸いカプセルのようなものだった。
大きさは人の顔ぐらい。
ゲイザはそれを手にとって見た。
「何なんだ……これは……」
手に取ると、自動的にカプセルが開いた。
その中にあった……いたのは、小さい人。
「小さい……これは、妖精とかいうやつか?」
カプセルからその妖精をそっと手に取った。
小さな子供のような顔をしており、服装、顔からして女の子。
しかも、羽がついている。しかし、その妖精は気絶して眠っている。
「仕方ない、とりあえず家に持って帰ってみるか……」
ゲイザは、森の中にある自分の家へ持って帰った。

「んっ……ここは、どこですの?」
小さなクッションの上で眠っていた妖精が目を覚ました。
目の前には一人の少年がいることに気づいた。
「お、やっと起きたか……」
ゲイザは目を覚ましたばかりの小さな妖精に話しかけた。
「あぁ……私、気絶してたのですね……」
小さな布から出て(毛布代わりにかけられていた)その場に立ち上がった。
「私の名前はラティーですの。よろしくお願いしますですのー」
「ら、ラティー? んで、妖精が……なんでこんなところに?」
「ラティーは妖精であり、妖精じゃないのですのー!」
「意味わからん……」
ゲイザは頭を抱えた。夢を見ているような気がしてならない。
妖精とは、昔話などで出てくる創造上な生き物である。
それが目の前にいることに、驚いてならない。
「とりあえずその『妖精であり、妖精じゃない』の意味がわからん」
「だーかぁーらぁー!」
ラティーは軽くその場から足を離すと、宙を飛んだ。
そして、ゲイザの目の前まで飛んでいった。
「ラティーは妖精の形をしたホムンクルス、ですの!」
「ほ、ホムンクルス……? なんだそれは?」
「ホムンクルスとは、創られた生命体ですの。だからラティーのような
可愛らしい妖精さんの姿にも創れるわけですのー」
ゲイザは頷きなるほど、と呟いた。
そしてまた、疑問が浮かんだ。
「なんで、お前は変な丸い物体に入って気絶していた?
っていうか、どっから降って来た?」
「あのですねー、救世主さんを探しにきたのですの」
「救世主?この世界に今救世主は必要ない気がするが」
ラティーはくるっと宙を一回転すると、テーブルの上に立った。
「あのですねー、この世界、っていうか……ここのあなたのいる世界は
グラディームという星。ラティーのいた星はマルディアグという星なのです!」
「グラディーム? マルディアグ? つまり、俺がいるこの世界の他にも
また別の場所がある、というわけか」
「そうですのー!ものわかりよくて助かる〜ですの♪」
「そ、そうですか……」
ただ一つ、ゲイザは考えていた。
救世主について。
「あのぉー、助けてくれますよね?」
ラティーはゲイザを見上げて涙目、いわゆるうる目で見つめていた。
そんな目で頼んでくるラティーからゲイザは目を逸らした。
しかし、ここまでこの話を聞いていると断りようがない。
それに、ゲイザには戦う力は十分にある。
「わかった。ただし、一晩考えさせてくれ……俺はとりあえず出かけるから」
「はいですの。それじゃ、当分行動を共にさせて貰いますのー」
「えぇ……!」
飛んでしっかりと後ろについて来ているラティーを見た。
なにやらニコニコと笑って楽しげな感じだ。
「何笑ってるんだ?」
「べっつにー、なんでもないですのー」
そのニコニコが、少々怪しく感じる。
それに、いくら人の少ないラミアズ村だからといって飛んで後ろに
いられたらかなり不審に思われる。
「とりあえず、ついてくるのはいいから飛ぶのはやめろ。俺の肩に乗ってろ」
「はいですの〜♪」
ゲイザはラティーを肩に座らせた。
するとなにかを思い出したかのように、ラティーに話しかけた。
「自己紹介、まだだったな。俺の名前はゲイザ=ライネックだ」
「わかりましたですの。ゲイザさん♪」
とりあえず二人はラミアズ村へ向かった。

ラミアズ村に着いたら、ゲイザはある人の家へ向かった。
「タクス、いるか?」
家の扉をあけると、コーヒーを飲んでいたタクスがいた。
「ん、どした? ゲイザ……って、ブッ!」
肩にいた小さい妖精が目に入った瞬間、コーヒーを吹いた。
「ゲ、ゲイザ! それなんだよ!」
「はは、すまんすまん……こいつはラティーって言うんだ」
ラティーはゲイザの肩から飛んだ。
「ラティーと申しますですのー」
空中で飛びながらラティーはタクスに向かってお辞儀をした。
「へぇ〜、よく出来た人形だな。どこで拾ったんだ?」
タクスがそうゲイザに聞いた。それを聞いたラティーはちょっと怒った顔をして、
「ラティーは人形じゃないですのー!!」
小さい体ながら、見事な蹴りがタクスの頭に直撃した。
少しの間無言でうずくまってた様子からすると、それなりに痛いみたいだ。
「タクス、今日は相談しに来たんだ」
「そ、相談?」
「ああ……俺、また旅に出ようと思うんだ」
「なぜに?」
ゲイザはタクスの質問に困った顔をしてラティーを見た。
しかし、ラティーは何かをごまかすかのように笑っていただけだった。
「まあ……話すと長くなるが」
ゲイザはラティーに頼まれたことを全て話した。
もう一つの世界のこと。そしてその世界の危機が訪れてること。
「なるほど。それなら俺も行こうかな」
「本当か?」
「まあ、ルベリィも一緒だけど、いいよね?」
タクスはラティーに聞いた。
「はいですの!人数は多い方がいいですのー」
「だ、そうだ」
「ん〜……でさ、ゲイザ。どうやってそのマルディアグかいう世界に行くんだ?」
ラティーは誇らしく胸を叩いて笑った。
「それならもうわかってるのですのー!あの大きな塔の天辺からいけるですの」
「破滅の塔……の、最上階」
ゲイザが呟いた。ハッキリ言って、破滅の塔にはいい思い出はない。
それに、最上階と来た。
「タクス、イカダの用意をしておいてくれ。明日出発だ」
「OK、まかせて」
「それじゃ、俺は明日に備えて早めに帰る。じゃあな」
そういってゲイザはタクスの家から出て行き、そのまま森の中にある
自分の家へ戻った。


続く

FC2 キャッシング 無料ホームページ ブログ blog