第]U話「ドール」
ミリアとマイは、スレイドが眠りについてから二人でグランシルの公園で
ブランコに座っていた。
ミリアはギィギィと音のなるブランコを空に舞い上がるほどにこいでいた。
一方マイはそのまま、夜の星空を見上げて座っていた。
「ミリアさん」
「なに?」
「ミリアさんは、スレイドさんの話を聞いて悲しくありませんでしたか?」
マイがそういうと、ミリアはブランコをこぐのを止めた。
そして、ミリアも星空を眺めた。
「悲しいといえば悲しい……そんなこと、いきなり言われたって
わかるはずないもの。でも、ここにいるのが私。ドールという存在だとしても
私は私だからって、ゲイザはきっと言うんだろうな」
そう言ってミリアはマイに微笑んだ。
ミリアはついさっき、スレイドに自分の秘密を話されたばかりだったのだ。
しかしその笑顔には不安は隠されていなかった。
「ドールは、なんでいるの?」
今後は逆にミリアがマイに問いかけた。
「ドールは、この世界の人々が昔争いをしていたとき、シャウナという光の精霊と
ディアライガという闇の精霊が争いを終わらせるために造った――『兵器』」
「兵器……?」
ミリアは兵器という言葉に恐怖を感じた。
「光のドール、闇のドールは共に感情を持っていなかった。それは、兵器には
感情は必要ないから……でも、ワタシ達ドールは人でいたかった。人を
殺すだけの兵器というだけでは辛かった。だから、精霊に逆らってワタシ達ドールは
理の精霊、メイラに頼んだの。そして感情を手に入れた……
だけど、昔いた勇者が、ドール達を封印した。
その生き残りがワタシとミリアさん、2人だけ」
「それが、ドール、ね……生き残り……じゃあ私達は、ここにいてもいいの?」
マイは俯いたまま何も話してはくれなかった。
彼女も、人でいたかった一人だったのだろう。
「感情ってね、人には絶対必要なんだよね。泣いたり、怒ったり、笑ったり。
喜怒哀楽――っていうんだっけ? 感情があるから、人は人らしくいられる……
ただ、私達はそれを望んだだけ……なのよね?」
ミリアはちょっと目に涙を浮かばせていたが、微笑んでマイにいった。
「感情は誰にでもあるものなの。だから、私達は許されるはず……
きっと――あ、そろそろ眠くなってきたし、帰ろっか」
そういうとミリアはマイの手をとって宿屋に戻った。
「うぅっ……ここは?」
朝。ゲイザは一晩たってようやく目を覚ました。
「大丈夫、ゲイザ? 怪我、まだ治ってないんだよ」
ミリアが横に座って微笑んでいた。きっと一晩中見ていてくれたのだろう。
あの城にいたことは覚えているが、それからのことがよく思い出せない。
「俺は、なんでここに?」
「気にしちゃいけませんよ」
マイが歩いてこっちへ来た。なんとかみんな無事だったようだ。
「ゲイザ、ようやく起きたか。話がある、ベランダへ来い」
スレイドは起きたゲイザを宿屋のベランダに呼んだ。
「ゲイザ。今この世界はどうなっているかわかっているか?」
「いいえ……」
「ネイホとヘズリィは戦争を始めようとしている」
「何っ!?」
ゲイザはビックリした。戦争といえば、昔あった戦争ぐらいしか思い浮かばない。
それに、相手はあのヘズリィだ。武力が一番強い国なので勝ち目がない。
「それに、ドール。ドールは精霊によって作られた存在だ。
また戦争が起きようとしている今、ドールの彼女らは殺戮の兵器と化してしまう
危険性がある。そこでだ。精霊に会って、ドールという存在の許しを得てくるんだ」
「よくわからないけど、それがミリアとマイのためになるなら俺はやる。
精霊に会えばいいんだな」
「そうだ。精霊は全部で3つ。光の精霊、シャウナ。闇の精霊、ディアライガ。
そして理の精霊、メイラ」
そういってスレイドはゲイザに地図を渡した。その精霊が住んでいる場所が記されている。
「わかったな、ゲイザ。そうしなければ、世界は滅ぶ……」
「滅ぶ……!?」
「じゃあな」
そう言い残すとスレイドは宿屋のベランダから降りて行った。
「滅ぶ――戦争のことも気になるが、今は前のことをやらなきゃいけない」
ゲイザは部屋に戻ってミリアとマイと共に精霊に会いに行くための準備をした。
続く
FC2 | キャッシング 花 | 無料ホームページ ブログ blog | |